この恋が手遅れになる前に
本田くんはモデルができそうなほど高身長で顔が整っている。おまけに性格も穏やかで仕事ぶりも真面目だ。モテるだろうし、女の扱いに慣れているんだろうなと思う。
「古川さん」
「ん?」
返事をした瞬間電車が揺れて本田くんの胸が私の肩に当たった。すると本田くんが電車のドアに手をつき、腕に力を入れて私が押し潰されないように突っ張って支えてくれている。
でも本田くんの顔がさっきよりも近い。私の耳に更に顔を寄せるから思わず緊張した。
「今夜、あいてますか?」
「え? うん、あいてるよ」
「じゃあ飲みに行きませんか?」
「私と?」
「はい。もうすぐ新人教育期間も終わりますし、お世話になったお礼に僕が奢りますので」
至近距離で笑顔を向けられて断りにくい。本田くんのことは嫌いじゃないし可愛がっているけれど、二人で飲みに行くほど親密ではない。でもせっかく奢ってくれるというのだから行こうかと思った。
「うん。じゃあご馳走になろうかな……」
「ありがとうございます」
照れたように笑うから私も口元が緩む。
会社の先輩とはいえ女と二人で食事に行って本田くんの彼女は嫌ではないのだろうか。
会社に戻るとエレベーターホールで章吾さんと出くわした。
「古川さん、本田くん、お疲れ様」
章吾さんはまるで私とは只の『上司と部下です』って顔して微笑んだ。今までは奏美と呼び捨てにしていたのに、本田くんがいるとはいえ名字で呼ばれるともう関係が終わったのだという事実を突きつけられたようだ。
「部長、お疲れ様です」
私と本田くんはエレベーターを待つ章吾さんの横に並んだ。