この恋が手遅れになる前に
あなたが奪われる前に
◇◇◇◇◇



政樹が本社に頻繁に顔を出すようになった。
担当している大型リゾート計画に区切りがついたのと、春に行われるフラワーイベントの監督を行うためだ。

長年会社が地元の企業と企画しているこのイベントはここ数年政樹が監督の下、若手の社員がリーダーとして進行することが慣例だ。今回は涼平くんが中心となり目玉のフラワーカーペットのデザインを考える。花びらを大きな紙の上に図案通りに敷き詰めて歩行者天国にした道路に飾られる。メディアの取材も入る大きなイベントだ。

政樹と章吾さんが揃って本社にいるだけでフロアの空気はいつもと違う。従兄弟同士の雰囲気が悪くなったのはこの1年ほどだ。といってもピリピリし始めたのは章吾さんだ。政樹は今も変わらず章吾さんを慕っている。

社長が体調を崩して入院したことがあってから次期社長はどちらに、という話が出始めた。
今は社長も元気になったけれど、政樹が大型リゾート計画の担当になってから章吾さんは落ち着かないように思う。きっと社長のイスを狙っているのだろうと思われた。





昼過ぎに一度帰宅すると仮眠を取って、日が落ちると再び会社に戻る。
ハロウィンが終わる31日の今夜は商業施設内でクリスマス装飾を監督する。
先にオレンジが中心の装飾を外す作業を社員が行い、内装業者の指定するクリスマスをイメージした花や電飾を飾る。

「じゃあ俺らが重いのと高いのをやるから、古川ちゃんはポインセチアを置くのとツリーの飾りよろしく。身長より高いところは危ないから俺らに声かけてね」

緑化管理部の椎名さんの言葉に「了解です」と返す。この商業施設の営業担当になったのは今回からなので、毎年作業を担当してくれる椎名さんがいてくれて心強い。

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