この恋が手遅れになる前に
数メートルあるモミの木を見上げて今年ももう終わりに近づいているなと実感する。
以前のこの商業施設の担当は章吾さんだった。クリスマスの夜にイルミネーションの撤去作業を終えて日付が変わると、予約してくれていたホテルに章吾さんと泊まったのだ。あれから数か月後には別れることになるなんて想像すらできなかった。
今年は12月25日に私だけが撤去作業を見届けて……ここ以外にも担当があるし、今年はクリスマスどころじゃないかな。
そう思って涼平くんの顔が浮かんだ。彼も担当の施設の作業がある。それが終わればすぐに門松の設置作業だ。
「奏美」
声をかけられて振り向くと章吾さんが私の後ろにいつの間にか立っている。
「え……どうしてここにいるんですか?」
「営業担当が変わったんだから挨拶に来たんだよ。それと、俺も作業を手伝いに」
章吾さんはそう言うとモミの木を見上げた。作業員を眺めながらシャツの袖を捲った。
「いいんですか? 深夜作業ですよ?」
「毎年俺もやってたんだから平気だよ。奏美が深夜起きてるのに俺が眠くて無理ってことないし」
そうじゃなくて、新婚なのに奥さんのそばにいなくてもいいんですかって意味ですよ。
けれどその言葉を口に出すことはしない。いつまでも嫌みったらしい女だと思われたくない。
商業施設のイルミネーション担当者と名刺交換を済ませると、章吾さんは椎名さんたちに交じって脚立に乗ると高い位置に飾りをつけていく。
なんだかんだ章吾さんと顔を合わせてしまう。向こうは私のことなんて気にしていないのが悔しい。
「古川ちゃん、ガーランドがこっちに多いんだけど配置ミス?」
近付いてきた椎名さんに一覧表を取り出して広げる。
「すみません、赤系統は二階のものです。私持っていきますね」