この恋が手遅れになる前に

「よろしく」

椎名さんからガーランドを受け取った。

「涼平うまくやってる?」

「え?」

「あいつがバイトの時に観葉について教えたのは俺なんだ。営業部に行ってからも気になって」

「そうなんですか」

「てっきり緑化管理部に来ると思ったのに営業にいっちゃうから……」

「すみません……」

私が悪いわけでもないのに思わず謝ってしまった。

「まああいつ美大卒だから営業かなと思ってはいたんだけど」

涼平くんは企画デザインをやりたいから営業部に来たのだろうか。教育係を私にしたのはそういう理由もあるのかな? 政樹が可愛がっているのだから教育係は政樹でいいと思っていたけれど、あいつはどちらかというとデザイン向きではない。

「そういえば営業部長さんを呼んだのは古川ちゃん?」

椎名さんは章吾さんを顎でしゃくる。

「いえ、営業担当が私に変わるから挨拶にって来てくださいました」

「へー」

椎名さんは含みのある声を出す。

「どうかしました?」

「古川ちゃんと部長って何かあったでしょ?」

「え! どうしてですか?」

「部長が古川ちゃんを下の名前で呼んだの聞こえたよ」

「あ……」

だから呼び方に気を付けてと言ったのに、すぐ変に思われてしまったではないか。

「あれはニックネーム的な……部長のフレンドリー精神というか……」

「俺も結構いろんな人を気安く名前で呼ぶけど、あれはそうじゃないでしょ。今ので俺は政樹派になったよ」

「政樹派って……」

「別に次の社長になるのは部長でも政樹くんでもいいと思ってたんだけど、結婚したのに女性社員に気安いのは俺的には引く。古川ちゃんと部長は付き合ってたんでしょ?」

「はい……」

鋭い椎名さんには誤魔化せそうになくて認めた。

< 35 / 94 >

この作品をシェア

pagetop