この恋が手遅れになる前に
撤収作業が終わるころになると章吾さんが私に近づいてくる。それに気づいた椎名さんが「じゃあ俺古川ちゃんを送りますので!」とわざと声を大きく出す。
「浮気すんなよ」と他の社員に冷やかされる中で私についてきてと促す。そのまま椎名さんの車で本当に家まで送ってもらえた。
「ありがとうございました」
「お疲れ。涼平をよろしくー」
そう言い残して椎名さんの車は行ってしまった。
まだ暗い中マンションのエントランスにゆっくり足を踏み入れる。
仕事は好きだけど人間関係は疲れる。
社長はまだ元気なのだから、誰が次の社長かなんて今決めなくてもいいのに……。
元カレと同じ職場ってしんどい。社内恋愛なんて面倒なだけ。
涼平くんと進展したとして、その先のことなんて想像できない。もし関係が悪化したらどうしたらいいのだ。同じ職場に居続けたら好きな仕事まで嫌いになってしまうんじゃないかと、嫌な想像が頭から離れないのだ。
◇◇◇◇◇
出社したばかりの私はエレベーターで営業部のフロアに行くと開いたドアの前にいる政樹とばったり会った。
「おはよう。政樹は外出?」
「おはよ。そうだよ、営業回り」
「珍しいね、政樹が営業に行くなんて」
「一応俺も営業部なんだけど」
そうだった。政樹は営業部次長で、同期とはいえ私の上司ということになるのだ。
「リゾート地に行く前の道に飲食店がいくつかあって、そこに営業かけてみる。ポインセチアくらいは置いてもらえるかもしれないし」
「さすがは社長候補だね。抜かりない」
「お前までその言い方やめろよ」
政樹は心底嫌そうな顔をする。