この恋が手遅れになる前に

「来年度のフラワーイベントは本田くんが企画責任者だって?」

「はい」

「本田くんの立候補?」

「そういうわけではありませんが、僕はこのイベントに慣れていますから」

「今年度の子たちの中では君が一番詳しいしね」

章吾さんの言葉に本田くんは「はい」と短く返事をした。
エレベーターが到着して乗り込むと章吾さんは私を見ようとしないで本田くんに話しかけていた。

花の専門学校や農業大学などの植物に関する学校出身の社員が多い中、本田くんは美大の出身だった。高校生の時から観葉植物を管理生産する緑化管理部にアルバイトとして入社して、会社のイベントには他の新入社員よりも多く携わっていると聞いていた。

フロアに着いてドアが開くと私と本田くんが先に降りた。

「お疲れ様でした」

中の章吾さんに言葉をかけても顔を見ることができなかった。

ドアが閉まるとほっとして溜め息をついた。

「古川さん」

本田くんに呼ばれて顔を向けた。

「今夜はどんな店がいいですか?」

気のせいかもしれないけれど、本田くんは機嫌が悪そうな顔をしている。章吾さんに話しかけられて緊張したのだろうか。

「ああ……何でもいいよ。本田くんに任せる」

「はい。では個室を予約しておきます」

「うん……え? 個室?」

フロアのドアを開けて先に入って行った本田くんの背中に疑問をぶつけても、彼は聞こえなかったのか振り向かない。

個室にする必要はないけれど、本田くんは落ち着いて食事がしたいのだろうか。










「古川さん、行けますか?」

定時になると本田くんはさっさと帰り支度を始めた。

「え、もう?」

「残業はしないように仕事を片付けるって口酸っぱく教えてくれたのは古川さんですよ」

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