この恋が手遅れになる前に

「そうなんだけど……」

まだデータの共有作業に時間がかかる。明日の資料もまとめてない。

「手伝いますから資料もらいますよ」

「あ、ありがとう……」

優秀な後輩をもつと立場がない。私の方が5年も先輩なのに。

定時から遅れること数分で仕事が片付いた。本田くんは機嫌よく私を会社の外へと促す。

「本田くんお腹空いたの?」

「え? まあ空いてますけど……」

「急いでお店に行きたそうだから。予約の時間に間に合わなそうなの?」

「そういうわけじゃないですが、ご飯行くの楽しみで……」

「そんなにいいお店なんだね。楽しみ」

完璧な仕事をする本田くんが選んだお店だからさぞ美味しいのだろうと思ったのだけど、本田くんは「それもそうですが……」と歯切れ悪く呟いた。
不思議に思ったところで本田くんが止まった。

「ここです」

会社から歩いてすぐのところにあるとは今まで気づかなかったお洒落な店だ。個室を予約したと言っていたからチェーンの居酒屋かと思ったけれど、中に入るとカフェかと思うほど可愛い内装だ。案内された席は木の枝で編み込まれた仕切りで区切られ、半個室になっている。

「ワインもカクテルも種類が豊富なんですよ」

本田くんの言葉の通り、メニューはたくさんのドリンクが記載されている。
店内の他のお客さんは女性同士やカップルが多い。こんなところに連れてこられるなんて思っていなかった。普通にデートで使えそうだ。運ばれてきた料理も全てが美味しい。

こんな店で男性とご飯を食べるのは久しぶりだ。章吾さんとはテーブルマナーに気を遣うお店にしか行ったことがなかったから。

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