この恋が手遅れになる前に
だから涼平くんの部屋でシャワーを浴びた後に確認されたのか。
政樹……余計なことを言わないでほしい。いつかあいつの彼女に会ったら同じようなことを言ってやるんだから。
「ちゃんと女だったでしょ?」
不機嫌を丸出しにした声に涼平くんは「魅力的な女性ですよ」と言った。
「俺の思った通り、奏美さんの全部がとても素敵でした」
「もういいって……」
涼平くんは思ったことを何でも口にする癖があるようだ。普通なら照れるようなことを言うのにも抵抗がないらしい。
「だから入社してみたら部長と付き合ってるんだって知ったときはショックでした」
「付き合ってること、わかりやすかった?」
「はい、とても。奏美さんはずっと部長を見てましたから。俺が追いつくの、間に合わなかったんだなって……」
この1年は章吾さん中心の生活だった。仕事もプライベートも常にそばにいた。
「でももう譲れません。奏美さんを手放したくない」
涼平くんの左手がハンドルから離れて私の膝の上の右手を握る。
「うん……」
温かい涼平くんの手を更に左手で包む。
私だってこの手を放したくない。涼平くんが突然離れて行かないように。
マンションの前に着くと、最後に確認するように涼平くんの顔を見る。
「本当に大丈夫? 眠くない?」
「はい」
「仮眠取っていく?」
「え、奏美さんの家で?」
「うん……」
涼平くんを部屋に入れるのは緊張する。でも睡眠時間を削って来てくれたのだから、運転しながら寝てしまわないか心配だ。
「すごく行きたいですけど、そうなると仮眠どころじゃないので帰ります。絶対奏美さんに手を出しちゃうので」
「そっか……」