この恋が手遅れになる前に
「奏美さん、俺この状況がしんどいです」
「え?」
「いつまで俺を部長の代わりにしますか?」
頭の上から聞こえる言葉に動揺する。
「さっき部長に子供ができたって聞かされた時の奏美さんの顔は未練たっぷりって顔でしたよ」
「っ……」
「確かに俺は代わりでもいいって言いました。奏美さんの一番になるまで待ちますとも言いました。でも俺のそばにいる奏美さんに期待しちゃうのも、そろそろ辛いです」
「…………」
「あんな男いつまで好きでいるんですか? いつになったら俺をちゃんと見てくれます?」
「…………」
「政樹さんにまで気を遣わせて、そこまで想い続ける価値があの人にあるとも思えません」
どうしよう。涼平くんに返す言葉が浮かばない。
私がまだ章吾さんと涼平くんの間で揺れていることを知っているのに追いかけてきてくれた。
今どんな気持ちで横に居てくれるのかを私はもっと考えるべきだったのに。
「奏美さんと部長の関係は、部長が結婚を決めた日に終わったんです。俺に抱かれたあの夜から俺を見てくれなきゃいけないんですよ」
ポロっと涙が落ちて涼平くんのスーツを濡らした。
当たり前のことを言われている自分が情けない。
「それを言うために今追いかけてきました。それなのに俺んちに来たいとか、どの口が言うんですか? 俺が奏美さんを抱きたいって思ってるの分かってて言ってるのなら残酷ですよ。どうせ俺に抱いてほしいわけじゃないのに」
どんどん涙がスーツに落ちる。それでも涼平くんは私を引き離すこともしないし、責めることもやめない。
「奥さんがいるのにいつまでも奏美さんに近づく最低な男なんかに惑わされないでよ」