この恋が手遅れになる前に
完全に怯え切ってしまった女性たちは「わ……悪かったわ……」と言葉を震わせながら野次馬をかき分けて慌てて逃げて行った。
「ふう……」
溜め息をついた涼平くんは落ちた花を拾ってタワーの吸水スポンジに器用に刺した。
私と加藤さんを振り返ると「もうあの人たちは来年以降来ませんから安心ですね」と笑った。
その瞬間私の目が潤む。安心してしまった。この場を涼平くんが治めたことに。
「奏美さ……古川さん? 大丈夫ですか?」
涼平くんが私に近づこうとした瞬間、「うわああん」と加藤さんが涼平くんに抱きついた。
「涼平くん! 怖かったー!」
「ちょっと、加藤さん……」
「怖かったよー……」
抱きついたままシクシクと泣く加藤さんの姿に私の涙は引っ込んだ。女性たちに怒鳴りつけたあの態度はどこに行ったのだろう。
引き剥がそうとする涼平くんの手が加藤さんの肩に触れる。けれど加藤さんは離れようとしない。
困った涼平くんは私の顔を見る。でも私も苦笑するしかなくどうにもできない。
「加藤さん、落ち着こう。取り敢えず離れよう。ね? 人が集まってるから……」
この言葉にようやく離れた加藤さんは涙で目が潤んだ赤い顔を涼平くんに向ける。先ほどの豹変っぷりを微塵も感じさせないことには呆れを通り越して尊敬すら抱いてしまう。
こういう態度に男の人は弱いのだろうか。
涼平くんは困った顔を加藤さんに向けるけれど、内心どう思っているのだろう。
可愛げのない私よりも、守ってあげたくなるような女の子の方が頼りがいのある涼平くんにはお似合いだ。
「じゃあ私がタワーを片付けるから、本田くんは加藤さんを本部に連れて行って」