この恋が手遅れになる前に
「え? いや、僕も手伝います」
「こんな状態の加藤さんを放っておけないでしょ? それに、今のことを政樹にも社長にも報告して」
「でも……」
涼平くんは私と加藤さんの間で揺れている。それがはっきりわかるほどに交互に顔色を窺う。
「ほら早く」
私に促されて涼平くんは渋々「はい……」と加藤さんの肩を支えて本部のあるビルへと歩いて行った。
「ふう……」
今度は私が溜め息をついた。
今年のイベントは疲れた。いや、ここ最近の仕事は特に疲れる。
もう感情を殺して仕事をしようか。転職する? でもこの仕事は好きだし……。あーあ……考えるのも疲れるな。
◇◇◇◇◇
「皆様今日はお疲れ様でした。乾杯!」
涼平くんの合図で社員が一斉にグラスをくっつけるカチンという音が店内に響く。
イベントが開催された大通りにある店を貸し切って打ち上げが企画された。今年の責任者である涼平くんのテーブルには政樹と役員、そして加藤さんが座っている。
涼平くんに笑いかける加藤さんは今日の騒ぎを忘れているかのようだ。涼平くんもお酒を注ぐ加藤さんに微笑んでいる。
横に私がいるよりも自然じゃない。美男美女で……。
でも今日別人のように豹変した加藤さんを見てしまった。あれが本性だとしたら間違いなく普段は猫を被っている。
あの可愛らしい容姿で信じられないほど口が悪い。加藤さんは何事もなかったかのようにふるまっているけれど、私が近くで聞いていたことに気付いているのだろうか。
「ねえ、加藤さんを見てよ。何あれ」
同僚の言葉に私のテーブルの社員が一斉に加藤さんを見る。涼平くんにぴったりくっつく加藤さんは満面の笑みだ。