この恋が手遅れになる前に

「すっかり彼女面じゃん。キモッ」

「うわ……本田くん災難」

同僚たちが加藤さんのことを悪く言うのをはっきり聞くのは初めてだ。

「ねえ古川さん、加藤さんって顔採用なんでしょ?」

そんな質問をされたら私の方が戸惑う。

「そうなの……?」

わざとらしくそんな噂は知らないふりをする。

「だって見た目以外に長所ないじゃん。なんであれを採用したかな社長は……あ、これは政樹さんに内緒ね」

同僚は私に複雑な顔を見せる。社長の人選を疑うということを同期の政樹に言わないでほしい、ということだろうと理解して頷く。

「次長も同じこと思ってるって」

「そうだよね、気が利かないし覚えも悪いし、女性社員に怒られると言い返すし」

「あー、わかる。男以外挨拶も適当だしね」

「今日の事件も加藤さんが問題だったんじゃん? 初めから古川さんが対応してたらフラワータワーも被害なかったかもしれないのに」

「え? みんな今日のこと知ってるの?」

あの事は涼平くんと一部の役員しか知らないと思っていたのに。

「あの周辺には他にも片づけで社員がいたらしいよ。みんな加藤さんと関わりたくなくて近づけなかったって」

呆れて溜め息をつきそうになるのを堪えた。加藤さんがここまで嫌われていたなんて初めて知った。けれどいくら嫌いだからといってトラブルに対応しないのは社員としてどうなのか。加藤さんはまだ入社1年目なのだ。

「暴言やばかったんだってね」

「ああ……うん……」

「本田くんにフォローしてもらって嘘泣きなんて、そこに頭使うならまともな仕事しろっつーの」

居心地が悪くなってきた。確かに加藤さんは問題があると思う。けれど楽しい打ち上げの場でこんな話はしたくない。

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