この恋が手遅れになる前に
「俺は来ない方が良かったですか?」
目を見開いた。
キスされそうな私の口を手で塞いだくせに、止めてよかったのかと確認する。その表情は怯える子供のようで、私まで泣きそうになる。
今涼平くんが来てくれて安心した。章吾さんと二人きりにはなりたくなかった。だから私はゆっくりと首を振る。
「来てくれてありがとう……」
小さく囁くと涼平くんは微笑んだ。そうして章吾さんに視線を移す。
「部長は中に戻ってください。みんな待ってますよ」
涼平くんは章吾さんを促す。けれど章吾さんは「奏美と話があるんだよ」と私から視線を逸らさない。
「奏美さんは俺と付き合ってます。部長と二人にするわけにはいきません」
「俺は奏美を傷つけるつもりはないよ」
「そうでしょうか? 奏美さんへの態度は既婚者のものとは思えません。これ以上奏美さんに関わるというなら問題になりますよ」
「君のその態度も上司に向けるものじゃないね」
章吾さんも今珍しく機嫌が悪い。笑顔であっても内心涼平くんへの敵意で溢れているのを感じ取れる。
「俺が上司として尊敬しているのは部長ではありませんので」
「学生の頃からの君に俺も目をかけていれば今は違った態度だったのかな?」
「それはどうでしょう。結婚しているのに社員に手を出す上司を尊敬できるとは思えません」
そう言って涼平くんは章吾さんを睨みながら私を背後に追いやる。まるで章吾さんから隠すように。
「部長は本当に奏美さんが好きですか?」
この言葉に章吾さんは意外そうな顔をする。
「どういう意味かな?」
「奏美さんはプライドを保つための道具じゃないんです」