この恋が手遅れになる前に

何でもないことのように笑う涼平くんの顔が霞む。目の前の涼平くんが頼もしくて愛しくて涙が出る。

「でも……」

もしも次期社長が政樹ではなく章吾さんということになれば、涼平くんの立場は悪くなってしまうのではないだろうか。

「章吾さんが社長になったら?」

「それはあり得ません」

間違いないと言い切る涼平くんに首を傾げる。

「政樹さんの方が優秀ですし社員に信頼されていますよ。社長が後継に選ぶとしたら政樹さんです。だから部長は政略結婚させられたんです」

何一つ確かなことは言えない。けれど涼平くんがそう言うなら本当に政樹が社長になる気がしてしまう。

「奏美さん気付いてました? 次期社長である政樹さんのお気に入りの俺は、将来の役員候補ですよ」

「え?」

「優秀ですし、まず間違いないですね。部長じゃなくて将来有望な俺のそばに留まってくれて正解ですよ。おまけに奏美さんを何年も想い続けてる純粋な男ですし」

自信満々に言い放つから笑えてくる。涼平くんは私を気遣って元気づけようとしてくれているのだろうか。

「今夜はこのまま帰ってください。俺が中からバッグ持ってきますから」

「え? もう? まだお開きにもなってないのに私が帰っても大丈夫かな?」

「奏美さんと部長をこれ以上同じ空間に居させたくない俺の気持ちを察してください」

「あ……」

拗ねたように顔を背ける涼平くんに照れてしまい私まで顔を背ける。
確かにこれ以上章吾さんのそばにいたくない。あの人は変わってしまった。以前は怖いと思うことなんて一切なかったのに。

「私だって……涼平くんが加藤さんの隣にいるのいい気分じゃないよ……」

小さく呟いた言葉が聞こえたのか突然「ふっ、ははっ」と吹き出した。

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