この恋が手遅れになる前に
この手口には覚えがある。涼平くんが私にしたように、加藤さんも涼平くんを酔ったふりして連れ込もうとしている。
どうしよう、今ここで出て行って止めるべき? でもここ最近態度が悪くなってきた加藤さんに注意したところで私の言うことを聞くかな? 強気に出られたら私は叱れるだろうか。
迷っているうちに二人は階段を上って行ってしまった。卓球台のある部屋に向かったのだろう。同じフロアには政樹が取っていた部屋もある。
政樹の部屋の鍵を預かったからって涼平くんは加藤さんとどうにかなったりしない。だって涼平くんはお酒に強い。酔ったふりをして私を部屋に連れ込むくらいだし。
でももし加藤さんに誘惑されたら靡いてしまわないだろうか……。加藤さんの容姿は羨ましいほど可愛らしい。
一人でオロオロしていた私は思い切って階段を上って二人の後を追った。
ラケットに球が当たる軽い音と楽しそうな声が漏れる部屋を通り過ぎて廊下の角を曲がると、先にはうずくまる加藤さんに話しかける涼平くんの姿がある。同期の女の子が離れていく後姿は更に先の階段へと消えた。
加藤さんが立ち上がると涼平くんに寄り掛かった。まるで甘えるように。
「大丈夫?」
涼平くんの心配する声に「無理かも……歩けない……」と加藤さんが返す。すぐ近くには政樹が取った部屋があった。
「じゃあ部屋まで送るよ……」
困った様子でも優しい涼平くんは加藤さんを突き放したりはしない。
「部屋までは無理……どっか空いてる部屋で休みたい……」
「空いてる部屋って……」
どうしよう、涼平くんが政樹の部屋に入ってしまうかもしれない。そうしたらもう加藤さんのペースだ。それだけは絶対にだめ!