そして、僕がみえなくなったら
伊月の体に異変が起きた最初の違和感は、道で人とぶつかった時だった。


ぶつかって盛大に転んだ伊月を、相手は見ることも謝ることもせずに去っていったのだ。


ただの非常識な人かと思って、文句を言おうとする私を、伊月は「平気だから」と簡単に許した。


伊月の寛大さに私も何も言わなかったけど、どうやら相手は非常識なんじゃなくて、伊月が見えていなかったらしい。



伊月の透明人間化は徐々に進行して、

見知らぬ人間から、

他のクラスの生徒、

そして同じクラスメイトや担任の先生まで、

この1ヶ月でどんどんみんなが伊月を見えなくなっていった。



伊月のこと、知らないんじゃないかってほど話題に出さないし、私が伊月の話をすると友達はみんな困った顔をする。


担任の先生は、朝の点呼で伊月の名前を呼ばなくなったし、伊月の使ってた机も椅子も、ロッカーも下駄箱も、いつしか空白となってしまった。



周りの人間が、どんどん伊月を忘れていく。

見えなくなっていく。

恐ろしくて、身震いしちゃう。



伊月はちゃんとこの世界にいるのに。




…………まさか幼なじみの勇大まで、伊月が見えなくなるなんて思わなかった。
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