そして、僕がみえなくなったら
「実和、今日はどうだった?」

「今日はね〜……」



優しい伊月の声に問われ、私は今日の学校の出来事報告を始めた。


伊月はもう学校で過ごさなくなったから、こうして私が毎日その日にあったことを伝えるのだ。


伊月が見えないみんなの中で透明人間のまま過ごすのは、辛すぎるから。



伊月が学校に行けない分、私がちゃんと学校のことを報告してあげるんだ。



「もうすぐ中間テストだからって、勉強しろ勉強しろって先生たちすごくてさぁ」

「まぁ、実和は人よりちょっと多く時間かけなきゃいけないからね」

「なにそれ!私がバカって言いたいの?」

「ははは」

「笑って誤魔化さないでよ!」

「ごめんごめん」



軽い謝罪に納得はいかないけど、伊月の笑顔を見ていると許してしまう私がいる。


ずるいよね。

伊月って。



笑うとできるエクボとか、超可愛いんだもん。



「実和と勇大と僕で、よく勉強会したよね」



昔に思いを馳せる伊月に、私も記憶を巡らす。


学校帰り、みんなで伊月の家に寄って、伊月に勉強を教えてもらって。

それから、伊月のお母さんの晩御飯を食べて。


中学からずっと私たちは、テストがあるたびに勉強会をした。



「楽しかったよね」



そう言葉を漏らす伊月の声は、どこか寂しそうで。


それもそうだ。

だって、伊月が見えるのはもう私しかいないんだもの。




勇大はもう、伊月のこと………。
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