呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?
シンシアはカヴァスの話を聞いた途端、期待で胸が高鳴った。
ヨハルが宮殿に来ている。彼ならば額の呪いに気づき解呪してくれる。
さらに今の自分は人間と話すことも可能なのでスムーズに帰れなかった事情を話すことができる。
話すタイミングさえあればこの状況から上手く脱出することができるかもしれない。
(ここ最近のイザーク様は『シンシア』っていう単語を口に出さない。そろそろ怒りも静まって存在を忘れた頃だと思うわ)
思いがけない幸運に恵まれて自然と猫髭が前に動き、尻尾もピンと上に立つ。
期待に胸を膨らませていると、イザークがテーブルに置いていたベルを鳴らしてロッテを呼んだ。
「お呼びでしょうか?」
イザークは膝の上に載せていたシンシアを抱き上げるとロッテに渡した。
「今日は今朝の続きの仕事もあって帰りが遅くなる。俺の代わりに夕食を頼む」
「お任せください。栄養のある食事を用意します」
イザークは頷いて最後にシンシアの頭を優しく撫でる。
『お仕事頑張ってくださいね』
心躍る素振りを見せないよう、シンシアは平生を装ってイザークへエールを送る。
たちまちイザークは頬を染めた。胸に手を当てて「尊い」などと言って呻いている。
「陛下、急いでください」
キーリとカヴァスに急かされ、後ろ髪を引かれる思いでイザークは部屋を出ていった。
しかし三人が部屋を後にして束の間、息を切らしたイザークが戻ってきた。