呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?
第4話
「お湯を張ってくるのでソファの上で寛いでいてね」
イザークを見送った後、ロッテは入浴剤と一緒にお風呂場へと向かった。
もちろんシンシアは大人しくソファの上で待機するつもりはない。
(逃げるが勝ちよ)
ぴょんっとソファから飛び降りると素早く外へと駆け出した。聖職者との謁見室の場所は以前探索した時に突き止めている。
(あとは誰にも邪魔されずに謁見室へ辿り着くこと。それなら、中庭を通るのが一番だわ)
中庭は猫のユフェの背よりも少し高い低木が植栽されている。隠れながら移動するにはもってこいだった。
早速シンシアは中庭を通行する。時折、使用人たちの話し声が聞こえてくるので植物に紛れてやり過ごした。何度かそれを繰り返した後、とうとう謁見室のある廊下に足を踏み入れた。
入り口近くに飾られている鎧の陰に隠れると、辺りの様子を窺った。丁度、謁見室の重厚な扉が音を立てて開き、中からはルーカスが一人で出てきた。
神官が着る祭服ではなく、護衛騎士の時に着る騎士服姿で、腰には剣をさしている。
(ヨハル様のお供で来ているんだわ)
彼は謁見室に向かって深く一礼をする。一旦どこか別の部屋で待機するようだ。
再び顔を上げるルーカスはシンシアがいる反対側に向かって歩き始めた。
(あっ、待って!)
シンシアは慌ててルーカスを追いかけた。寄せ木細工の廊下には彼と自分以外誰もいないことを確認して声を掛ける。