呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?
『ルーカス!』
名前を呼ばれたルーカスは立ち止まるとこちらへ振り返った。猫のシンシア以外、この廊下には誰もいない。
空耳かな? といった様子で首をかしげるものの、ルーカスはすぐに額の花びらに気がついてくれた。話しやすいようにしゃがんでくれる。
「おや、呪いで猫に変えられてしまったのですね。この間の討伐部隊の方でしょうか? 早く要請してくだされば解呪したんですけど……」
『討伐部隊へ派遣はされたけど騎士じゃないわ。私だって一刻も早く帰りたかったけど、イザーク様に捕まって帰れなかったの』
しゅんと耳を垂らして事情を説明するとルーカスが吃驚した。
「猫が喋った!?」
ルーカスは跳び上がると数歩後ろへと下がる。
『あ、驚くのも無理ないわ。私も言葉が通じると分かった時はびっくりしたから』
「話し方とその声からして、もしかしてシンシアですか?」
『ええ、シンシアよ』
答えを聞いたルーカスは口を半開きにして唖然としていたが、やがて頭を振ると剣を構える姿勢になった。
「あなたは一体何者です? 呪いを掛けられた人間は姿を別の生き物に変えられるだけでなく、人間の言葉も話せなくなります。魔物の核が額にはありませんが、新種の魔物の可能性も否定できません」
ルーカスは警戒心を露わにする。そのことについてはシンシアも究明できていないので説明のしようがない。ただ、事実を話すことしかできなかった。