呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?
『私も何がどうなってるのか分からない。つい最近人間の言葉が話せるようになったの。でも私の額にはこの通り呪いの花びらはあるし、もし新種の魔物だとしてもこんなところにいるわけないでしょ? ここは皇帝陛下のいる宮殿なんだから』
ルーカスは黙り込むと考え込む。暫くすると腑に落ちないといった様子ではあったが、剣の柄から手を離して攻撃の態勢を解いてくれた。
一先ず魔物ではないと判断してもらえたのでシンシアはほっとした。
『証拠になるか分からないけど私しか知らないルーカスの話をした方が信憑性も増すかな? 幼少期に山で足を滑らせてあなたが捻挫した話とか。あっ、それよりも数年前にルーカスが羊皮紙に書いてた詩を一言一句間違えずに今ここで披露し……むぐっ』
話の途中でルーカスの手に口を塞がれる。
「分かりました。あなたは間違いなく私の幼馴染みのシンシアです。認めるので私の思い出したくない黒い過去を晒さないでください」
良いですね? と、念押しされたので頷くとルーカスの大きな手が口元から離れた。
シンシアはずっと気がかりで仕方がなかった教会の状況を尋ねた。自分がいなくなって周りに迷惑を掛けていないか不安だった。
「シンシアが失踪してヨハル様もリアンも、それから修道院の皆も心配していますよ。聖女が失踪したなんて知られれば混乱が起きるので、今のところ関係者以外は秘密になっています」
皆に心配されていると聞いて申し訳ない気持ちになる。
シンシアは縋るようにルーカスの腕に前足を乗せた。