呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?
――すっかり忘れていた。
思い悩みすぎてお風呂のことが頭からすっぽりと抜け落ちていた。慌てて扉を確認するが扉はきっちり閉められている。
完全に詰んだ。万事休すだ。
諦めの声が頭の中で延々と響くが、それでもシンシアは抵抗をみせた。
『お風呂に入らなくても私は大丈夫! いつも清潔だから問題なしよ!』
「嫌がらないで。たまに石けんで洗わないと。病気になったら大変よ」
暴れていると有無を言わさないロッテにバスタブへ浸けられる。水面にはもこもことした泡が立ち、バラの匂いが鼻孔をくすぐる。
バラの香りにはリラックス効果があるはずなのにちっとも効果を発揮しない。
泡のせいで却ってお湯の嵩が分からないシンシアは完全にパニックに陥っていた。
(ひいぃっ。怖い怖い怖い!! も、もももう無理。た、耐えられない……)
気が遠くなり始めているとロッテが横で海綿を使って石けんを泡立てている。
「それじゃあ背中から洗っていくからね――って、誰!? ユフェ様はどこ!?」
悲鳴を上げるロッテは手にしている石けんを床に落とす。