呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?
第5章 仮宮の妃候補

第1話



 ◇

 アルボス宮殿の一番奥に位置する後宮は密かに賑わいをみせていた。
 イザークが皇帝に即位してから誰一人としていなかった後宮内に妃候補となる令嬢が入宮したのだ。

 女官たちは水を得た魚のように生き生きと働いた。仕えるべき主のいない後宮でずっとこの時を待ちわびてきたのだから当然のことだ。

「シンシャ、各部屋のシーツやクッションカバーを集めてちょうだい。フレイア様は明るくて可愛らしいデザインがお好きだから模様替えをするわ」
「はい。承知しました」

 三つ編みのワンテールにお仕着せ姿のシンシアは、掃除係の侍女として働いていた。
 お風呂場でロッテが提案してくれた内容は後宮の掃除係の侍女として働くことだった。妃候補である令嬢――フレイア嬢の後宮入りすることが急遽決まったらしく、人手が足りないため女官を補佐する侍女を募っていた。


 ロッテは遠い親戚で仕事を探している子がいると言って、シンシアを侍女長に紹介してくれた。幾つかのテストを受けた後、シンシアはすんなりと採用された。
 侍女長曰く、妃候補と接する機会はほとんどない掃除係なので読み書きや簡単な作法が身についていれば問題ないとのことだった。

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