呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?


 後宮は猫の手も借りたいほど忙しい状況で、シンシアはすぐに後宮で働くことになり、そのまま三日が過ぎた。仕事中はロッテと会えないが運の良いことに同じ宿舎になった。隣の部屋を割り当てられたのは侍女長の計らいなのかもしれない。

 イザークの様子をロッテに尋ねると「ユフェ様は暫く私と過ごしますって報告したら寂しそうにはしていたけど、そこまでショックを受けていなかったわよ」とのこと。

 一緒の時間がなくなって嘆かれると予想していたのに意外な様子に拍子抜けだった。

(ま、まあいつまでもいられるわけでもないし? いつかは私も人間に戻って離れるんだから、それがちょっと早まっただけ。イザーク様が寂しかろうがそうでなかろうが関係ない。だって相手は私を殺したくて堪らないんだもの。情を持つ必要なんてないわ)

 それでも何故だろう。何故か気持ちは晴れない。
 シンシアはお仕着せの下に隠している森の宴に触れ、頭を振って仕事に集中する。最後のシーツを取り終わると、籠にぎゅうぎゅうと押し込んだ。

(修道院でいろいろ経験しているから掃除に洗濯、皿洗い、裁縫なんでもござれ。うっかり粗相なんてしなければ大丈夫。あとは休みの日に通行許可証を持って宮殿を出れば自力で教会まで行ける。――完璧だわっ!)

 籠を両手で抱えるシンシアはほくほくと笑みを浮かべ、リネン室へと運んでいく。
 廊下を歩いていると、丁度通り過ぎようとした部屋から悲鳴が聞こえてきた。

 驚いて歩みを止めると、側を通っていた他の侍女もシンシアと同じように立ち止まり困惑している。
 部屋の扉をしげしげと眺めればそこはフレイアが使っている部屋だった。癇癪を起こしているのか、彼女とおぼしき金切り声と陶器の割れる音が響いてくる。

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