呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?
女官や侍女のお仕着せとは違い、彼女はたまご色のドレスを着ていた。
ドレスには花や枝の続き模様の刺繍が入り、所々には真珠がちりばめられ、裾には白のフリルがついている。美しくまとめられたルビーレッドの髪に、意志の強そうなつり目がちな青色の瞳。面差しは凜としていて、その佇まいから醸し出される、気品あるオーラ。
間違いない。彼女がこの仮宮に入宮したというフレイアだ。
分かった途端、緊張感が走る。
(さっきのこともあるし、関わらないようにした方が身のためかも……)
シンシアは気づかれまいと抜き足で通り過ぎようと画策する。
「そこの方、少し良いかしら?」
ギクリ、とシンシアは肩を揺らした。フレイアからは死角になって見えないはずなのに存在がバレてしまっている。
呼び止められたシンシアは大人しくフレイアの元に歩いて行く。彼女はこちらに身体を向けるとつり目がちな目を細めた。
「質問なのですが、あなた虫は平気でしょうか?」
「え? ええ、はい。特に怖いとも気持ち悪いとも思いません」
突飛な質問に面食らいながらも、粗相のないように慎重に答える。すると、フレイアは顔をぱっと綻ばせた。
「まあっ! なら手伝って欲しいことがありますの」
フレイアは優しく包むようにしている手をそっと広げてみせる。怪訝な顔でフレイアの手の中を覗き込めば、そこには数匹のまるまると太った芋虫がいた。
「どうしてフレイア様が芋虫を?」
一般的に考えて令嬢のような身分ある女性は虫やカエルを怖がる。触るどころか視界に入れるのも嫌で、使用人たちに命令して処分して欲しいと懇願するはずだ。
ところがフレイアは他の令嬢と一線を画しているようで、手の中の芋虫に視線を落とすと、にこにこと指の腹で撫でて愛でているのだ。