呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?
第2話
フレイアは柔和な微笑みを浮かべると風で靡く後れ毛を耳に掛ける。
「手伝ってくれてありがとう。虫が平気な方で本当に良かったわ」
「草むしりや菜園の手伝いをしたことがあるので芋虫くらいなんてことないですよ」
世間話をする感覚で他愛もない内容を話したつもりだが、フレイアは食いついた。
「まあっ! そうですの? 実はわたくしも屋敷で植物を育てていましたのよ」
生き生きと目を輝かせながら、フレイアは植物や虫について饒舌に語った。時折相づちを打つシンシアはその様子を見て微笑む。
すると、突然フレイアが声を呑んでじっとこちらを見つめてきた。
「あなた、とっても綺麗な顔立ちですのね。……なんだかどこかで見たことがあるような」
唸りながらフレイアはシンシアの顔をためつすがめつ眺めてくる。
もしかして聖女姿の時に会ったことがあるのだろうか。笑顔を貼り付けるシンシアの額には若干汗が滲む。
「ひ、人違いですよ。さあさあ、芋虫さんの避難も済みましたし、宮へ帰りましょう」
誤魔化すように手を叩いてフレイアを仮宮へと誘導する。と、前方からフレイアの名前を呼ぶ侍女が小走りでやって来た。
「お、お嬢様! フレイアお嬢様ぁ!!」
「まあ、ボニー。虫嫌いなのに庭園に来ることはなかったのですよ」
「でも、お嬢様お一人にするわけにはいきません……」
ボニーはぎこちない笑みを浮かべながら手を擦り合わせる。虫が怖いのか挙動不審でひどく怯えていた。