呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?


 フレイアは腕を組むと口元に手を当てて暫し考え込んだ。やがて決意したようにこっくりと頷くと真顔でボニーに言った。

「ボニー、すぐに荷物をまとめて屋敷にお戻りなさい。良かれと思ってあなたをわたくし付きの侍女にしましたけど乳母のベスと交代してもらいます。もう歳だから迷惑は掛けたくないと思って交代させましたけれど、やっぱり彼女じゃないとしっくりきませんわ」
「そ、そんなぁ……私はまだやれます!」
「いくら屋敷から持ち込んだ食器だとしても毎回となれば目を瞑れません。ここにあるものはすべて陛下や陛下のお妃様のためのもの。万が一傷つけでもしたらどうするのです? わたくしは一介の妃候補にすぎないのですよ」

 フレイアは厳しい口調で叱りつける。
 ボニーは何度も懇願するものの、フレイアはまったく聞く耳を持たなかった。

 地面にくずれおちてめそめそと泣いているボニーに、フレイアは優しく肩を抱き、穏やかな表情を向ける。

「安心してください。あなたの給金を減給にしたり、待遇を悪くしたりするつもりはありません。これ以上、ここの女官や侍女の方に心配と迷惑をかけたくないのです。それにずっとこんな調子ではあなたの身が持ちませんでしょう?」

 一部始終を見たシンシアは、フレイアは品行方正で貴族令嬢らしい女性だと思った。

 つり目がちな顔立ちのせいで気の強そうな印象を受けるが彼女は見た目とは違って寛大で情け深い。
 フレイアがイザークの妃になればこの国はさらに安定した治世となるだろう。

 そう思った途端、シンシアの胸の辺りがざわついた。
(……この気持ちは何?)
 胸に手を当てたシンシアは今まで感じたことのない感覚に目を瞬いて首を傾げた。

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