呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?
「宮殿は男ばかりで花がありません。実際問題、わたくしの入宮は嬉しいでしょう?」
反論しようとイザークは口を開き掛けるが結局、フレイアから目を逸らして何も言わなかった。やがて、小さく息を吐くとフレイアの隣に立ち、鋭い目元を和らげる。
「……好きにしろ。あまり邪魔をするなよ」
腕をフレイアに差し出してエスコートする。満足げに目を細めるフレイアは泰然と彼の腕に自身の手を絡めた。
「ふふ。積もる話はいっぱいありましてよ。お茶でも飲んでお話しましょう」
二人は女官と侍女を引き連れて宮の中へと入っていった。
辺りは誰もいなくなったが、シンシアは壁際で未だに硬直していた。
(お兄様? お兄様ってどういうこと? いやでも、フレイア様は名門貴族の令嬢だとロッテが言っていたし、幼い頃からの仲なのかも)
フレイアはイザークの威圧的な態度をものともせずに笑顔で会話している。肝が据わっているのか、それとも幼い頃から一緒に過ごし慣れてしまって平気なのか。
どちらにしても自分には到底できそうにない振る舞いだ。
そして去り際の二人を盗み見たが、イザークの瞳はユフェの時と同じように優しい色が滲んでいた。
――なんだ、猫以外にもあんな顔ができる相手がちゃんといるんじゃないか。
自然と深い溜め息が漏れたところで、シンシアは目を見開いた。
(……あれ、なんで私はがっかりしているの? これでいいのよ。だって私がいなくなった後、独り身のままだったらイザーク様は悲しい思いをする。でもフレイア様が側にいれば……彼女が慰めてくれる。私の代わりとして、私以上に支えてくれるし、世継ぎの心配だってなくなるわ)
帝国が今と変わらず平和である未来を想像するとほっとする。
そのはずなのに、今度は胸の辺りがチクチクと痛い。また体調が悪いのだろうか。
(ヨハル様より先に死んじゃったらどうしよう)
お仕着せの下に隠している森の宴を握りしめると、シンシアは仕事を再開した。