呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?


「もしかして虐められてるの?」
「ち、違う。虐められてなんかないよ!」

 びっくりしたシンシアは手を振って否定する。
 最近自分で自分の感情がよく分からない。これはもしかすると人間から猫に、猫から人間に急激に変化したせいで、身体だけでなく精神的な負担もきたしているのかもしれない。
 話すべきか迷いながらもシンシアは重い口を開いた。

「ロッテ……実はね、最近この辺りが変なの」
 胸に手を当てて訴えると、ロッテが隣に腰を下ろす。
「胸の辺りが変って大病かもしれないわ。どんな症状なのか私に話してみて」

 シンシアは小さく頷くと訥々と話した。
 初めは真顔で相づちを打つロッテだったが話につれて様子が変わっていった。堪えるように唇を震わせ、終いには「もう駄目」と口にしてお腹を抱えて笑い出した。

「もう、なんで笑うの?」
 口を尖らせてロッテを咎めると、彼女は目尻の涙を払いながら謝罪する。
「ごめんね。あなたがあまりにも可愛いことを言うから、つい」
「可愛いこと?」

 訳がわかないシンシアはロッテの手に自身の手を重ねると揺すった。
 一頻り笑ったロッテは居住まいを正すと真っ直ぐシンシアを見つめる。

「ユフェ様が側にいないのに、陛下が思いのほか寂しがってなくて悲しい?」
「ちょっとね。でも陛下にはフレイア様がいらっしゃるから」

 皇帝陛下であるイザークは多忙だ。これまで忙しい中時間を割いてユフェと過ごす時間を作ってくれた。しかし、今度は仕事に加えて妃候補の相手もしなくてはいけない。
 きっと寂しがる時間がないほど余裕がないのだとシンシアは思うことにしている。

< 153 / 219 >

この作品をシェア

pagetop