呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?
どうやらロッテはシンシアの悩みをただの冗談だと捉えたらしい。
それもそうだ。つい先日まであんなにイザークを恐れ、見つかりたくないと言ってロッテに助けを請うていたのだ。この心境の変化はあまりにも唐突過ぎる。
その後話題が王都の町並みに移り、ロッテは今日見てきた気になるお店の話を始めた。
シンシアは終始微笑んでいたが、実際は気も漫ろになって何を話したのかちっとも覚えていなかった。話し終えて「また明日」と手を振ると扉を閉める。
途端に両頬が熱くなるのを感じてシンシアは両手で押さえた。
(まさか、これが恋だなんて……)
今ならこの胸のドキドキが病気ではなく、恋から来るものなのだと理解できる。
(私……イザーク様が好き)
「でも……そんなこと、できないよ」
シンシアは俯くと、強ばった自分自身を抱きしめる。
イザークは聖女の自分を思い出す度、眉間に皺を寄せて殺気を帯びた恐ろしい顔つきになった。
情状酌量の余地は絶対にない。その証拠にルーカスが先日イザークの様子を報告してくれたばかりだ。
この気持ちが報われる日は永遠に来ない――。
シンシアは扉に背中を預けるとずるずるとその場に座り込み、絶望したのだった。