呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?
「待ってください。わたくし、あなたにお願いがあって参りましたの」
「お願い?」
よく見るとフレイアは首から下まですっぽりと外套を覆っている。面倒ごとに巻き込まれそうな気がして断ろうと口を開きかけるが、先にフレイアが言葉を発した。
「わたくしを、誰にも見られずに宮殿の執務室へ連れて行ってくださらない? もちろん我が儘なことだとは重々承知ですの。でも、わたくしどうしてもあの方が仕事に励んでいらっしゃる姿を一目でいいから見たいんですの!」
真剣な表情で詰め寄るフレイアにシンシアは戸惑った。
「どうして私なんですか? 女官やお屋敷から連れてきた侍女に頼めば良いのでは?」
「あなたはいつも外の仕事をしていらっしゃいます。他の女官や侍女と比べて怪しまれずにわたくしを連れ出してくれると思いましたの。それに虫好きに悪い方はいらっしゃらないですわ!」
持論を展開するフレイアは早速外套を脱ぎ捨てる。どこから入手したのか、侍女のお仕着せに身を包んでいた。
大胆不敵な行動にシンシアは絶句する。
フレイアの言うあの方とはイザークのことに違いない。つまり手引きすれば二人の恋の盛り上げ役を担ってしまうことになる。
(お妃様になる方だし、応援した方が良いに決まってる。決まってるけど、その前に宮殿へ行ったら私が聖女だってバレてしまうじゃないの!!)
シンシアは数歩後ろに下がると、小さく首を振る。
「わ、私には無理です!!」
シンシアはフレイアに背を向けるとそのまま全力で走った。