呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?


(おかしい。こんなところで瘴気みたいな気配がする)

 困惑しながらも意識を集中して瘴気の元がどこにあるのか探る。しかし、地を這う蛇のように中庭全体を瘴気が蠢いているので判然としない。

(この辺りは僅かだけど、前方からはより強い瘴気を感じる。このままだとフレイア様に危険が及ぶわ)


 焦っていると急にフレイアの足が止まった。彼女もこの気配を本能的に感じ取ったようで戸惑いの表情を滲ませる。
 シンシアはその隙にフレイアの腕から抜け出して地面へ降りると真っ直ぐに走った。

(この先にあるのは確か――)
 花壇を抜けたその先には噴水が佇んでいた。今は水が噴出していない。
(この辺りから強く感じたんだけど……)

 シンシアはベンチに乗って噴水を観察する。意識を噴水に集中させてみるものの、瘴気も元となるものも見当たらなくて首を捻る。
 やがて、後方から「待ってください」と声がして振り返るとフレイアが走ってやって来た。息を切らし、シンシアの姿を見つけると数メートル離れたところで立ち止まる。

(今はフレイア様の安全のためにも早くここを抜け出した方が良いのかもしれない)

 これ以上無茶はできないと思い、切り上げようとするとシンシアの全身が総毛立った。
 僅かに感じるだけだった瘴気がいつの間にかフレイアの頭上で幾重にも重なり漂っている。
 シンシアは焦った。

(さっきまでなかったのに一体どこから発生したの? 瘴気がこんなにもあるのに元となるものが見当たらないなんて。ロッテの時は薬自体に魔瘴核が入っていて瘴気を放っていたけど、これには原因になる元がない……)

 原因元を突き止めたいのは山々だが、まずはこの瘴気を浄化する必要がある。
 シンシアは浄化のためにティルナ語を詠唱しようと口を開きかけた。が、もう一人の自分が心の中で駄目だと叫ぶ。
 何故ならフレイアには妖精猫であることを伝えていない。さらに今は通行人が多い時間帯だ。周囲に人気はないが誰かに喋っている姿や精霊魔法を使っている姿を見られては大事になる。
 打つ手がないシンシアは悔しげに臍を噛んだ。

(……でもこんな状況で設定がどうとか言ってられない。人命を第一優先にしない私は聖女として失格だわ!!)

 覚悟を決めたシンシアはベンチから降りてフレイアに歩み寄る。こちらの動きに気づいた彼女はたちまち顔を強ばらせた。歯をカチカチと鳴らしながら酷く怯えている。

 一体どうしたのだろう。シンシアが心配してさらに近づくと、フレイアが絶叫した。

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