呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?
「なんてことしてくれたんだよ。君のせいで計画が水の泡じゃないか!!」
いつも物腰の柔らかい彼の態度が一変した。
シンシアの知っているルーカスはいつも優しく頼りになって、落ち込んでいると元気づけてくれる兄のような存在の人だ。
「ル……カス?」
不穏な空気を感じて自然と距離を取る。が、俊敏な動きで間合いを詰めるルーカス相手ではいくら人間の時より足が速くなったシンシアとて分が悪い。
瞬く間に首根っこを掴まれて持ち上げられてしまった。
こちらを睨めつけるルーカスは忌々しそうに口元をへの字に曲げた。
「シンシアはいつも俺の行く手を阻んでくれるね」
「な、何よそれ。今まで一度だって邪魔したことないわ」
「……そっか。俺の大事なもの、奪っておいて気づきもしないんだ? 流石はお偉い『アルボス帝国に舞い降りた精霊姫』の聖女様だ」
訳が分からず混乱していると、ルーカスはにっこりと微笑んだ。
続いて、これまで見たことのない剣幕の形相が近づいてくる。
「君にはこれまでの十四年間、苦しめられたお礼をたっぷりさせてもらうよ。――俺にとって最っ高な形でね」
口端を吊り上げて笑うと、ルーカスは懐から小瓶を取り出して片手で器用に蓋を開ける。
「な、何をするつもり……うっ」
無理矢理口に瓶をねじ込まれて中身を流し込まれる。
(こ、これって眠り薬っ……)
匂いと味で判断できたところでもう遅い。げほげほと咽せるシンシアは急激な眠りに襲われてそのまま抗う間もなく眠り込んでしまった。