呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?
受けた衝撃から呻き声を上げるルーカスのもとに太い枝が伸びてきた。動けないように手足をからめとると幹に貼り付けるように拘束する。カヴァスがフォーレの力を使って植物を操作しているようだった。
シンシアは一連の流れをただ呆然と眺めることしかできなかった。
(す、凄い。ルーカスは護衛騎士の中でも指折りなのに。カヴァス様はもっと強いのね。普段女たらしだけど側近なだけある……)
カヴァスを再評価していると眉間に皺を寄せるイザークがシンシアの前にしゃがみ込んできた。
ユフェの時には一切見せない、いつもの極悪非道な顔つきだ。
「……シンシア」
名前を呼ばれてシンシアはヒュッと喉を鳴らした。いつの間にか落ちていた自身の短剣を握りしめている。
ルーカスに命を狙われた時よりも嫌な汗が背中を伝う。
おもむろにイザークの手が伸びてきたのでシンシアは反射的にぎゅっと目を瞑る。と、拘束のロープが切られる音がして手首の圧迫感がなくなった。
目を開けて確認すると今度は足首の縄をイザークが切っている最中だった。シンシアは解放された手で口に詰め込まれた布巾を取る。
ロープを切り終えたイザークは短剣を腰に収め、シンシアを一瞥した。
「大丈夫か? 間一髪のところだったな。来るのが遅くなってすまない」
申し訳なさそうにイザークが眉尻を下げる。
(どうしてイザーク様が謝るの? だって、イザーク様は私のこと殺したいはず。それなのに、どうして助けに来てくれたの?)
心配の言葉を掛けられてなんと答えるべきなのか、考えても言葉が見つからない。
シンシアはただ口をぱくぱくと動かした。