呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?
イザークは反応に困っているシンシアを見て目を細める。続いて、頬にある引っかき傷を辿るようにゆっくりと指でなぞりながら精霊魔法の治癒で治していく。
治癒を施し終えたイザークは両手で優しくシンシアの頬を包み込むと存在を確かめるように優しく撫でる。
何度も撫でられてシンシアの顔に熱が集中していく。触れられる度にくすぐったくて同時に胸が高鳴ってしまう。
イザークは懐に入れた人間には情が深いとロッテの件で身を以て知った。だが宮殿でルーカスが教えてくれたように、彼はシンシアを処刑したいほど怒っている。それはつまり、シンシアがどんなに努力したところで彼の懐に入ることは叶わないということだ。
絶対にこの想いが報われないことを痛感して、先程までの高揚感が一気に絶望へと染まっていく。内心悲嘆していると、カヴァスがイザークに声を掛けた。
「陛下、この人どうする? 魔力封じの薬を飲ませたから抵抗しないよ」
カヴァスは睥睨しているルーカスを背にして親指で指す。
イザークは立ち上がると腕を組んで思案顔になった。
「反逆罪だしこのままネメトンに放置して魔物の餌にでもしておくかい?」
カヴァスが残虐なことを口にしたのでシンシアは思わず睨み付けてしまった。それはリアンも同じだったようだ。
「なんて外道な。法治国家である帝国の人間が言うことではありません」
「ははは。冗談だよリアン」
リアンに窘められたカヴァスは慌てて弁解した。
シンシアは拘束されているルーカスを眺めた。
睨みを利かせているが殺気は感じない。ただ虚勢を張っているだけのようで、表情には諦観が滲んでいる。
シンシアは自ずと立ち上がるとルーカスに近づいた。