呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?
危ない、という意味を込めてイザークに腕を掴まれるが、シンシアは大丈夫だと小さく首を横に振ってルーカスに対峙する。
「……なんだよ」
ぶっきらぼうに尋ねてくるルーカスを前にシンシアはただじっと見つめる。
(ルーカスに殺されそうになった時、不思議と怖くはなかった。だって私を殺そうとした時、人生を悲嘆して生きるのが苦しそうな顔をしていたから)
自分は今までルーカスの何を見てきたのだろう。
気がつくとシンシアの瞳からは涙が溢れ、嗚咽を漏らしていた。
「……ごめん、ごめんね。……ごめんねルーカス」
ずっと側にいたのに、一度もルーカスの悩みと苦しみに気づいてあげられなかった。
いつも兄みたいな存在であるルーカスに甘えてばかりで、ちっとも寄り添えていなかった。そんな自分がつくづく嫌になる。
悲しさと悔しさから涙が溢れてしまう。泣いても仕方がないことは頭で理解していても感情を抑えることはできなかった。
「なんでシンシアが泣くんだよ」
「私はルーカスのことを大切な家族だって思ってる。ヨハル様もリアンも修道院の皆は私の大切な家族だから。辛くて苦しいなら私にもそれを背負わせて。図々しいお願いかもしれないけど、これ以上苦しんでいる姿を見たくないよ。……川に落とされたあの頃も今みたいに辛そうだったから」
シンシアがあの時の記憶を封じ込めたのはルーカスの最後の表情を見てしまったからだ。だから忘れることにした。自分だけの秘密にして、また今まで通り家族として過ごすために記憶に蓋をしたのだ。
(でもそれだと、ルーカスの苦しみに寄り添ってないから……)
ルーカスの表情がくしゃりと歪んだ。
「……煩い。今更、そんなこと言っても遅いんだよ」
顔を背けるルーカスの元に、今度はリアンが近寄ってくる。