呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?
しかし、狐は空中で見えない壁に顔面を強打してそのまま地面にずり落ちる。
結界を張っていたので狐はそれにぶつかったのだ。
驚いたシンシアは悲鳴を上げた。
(こんなところで考えごとをするなんて不用心だわ。今は目の前のことに集中しないと、この間の二の舞になっちゃう)
シンシアは提げていた鞄からリアンに持たせてもらった痺れ玉を取り出すと、狐の口目掛けて投げ入れる。見事口の中に薬が入ると、たちまち狐はその場に倒れて動かなくなり、きゅうっと悲しげな声を上げた。
「さすがリアン。魔物にも薬が良く効くみたい!」
感心しながら手に持っている小さな革袋に視線を向ける。
リアンはあれからも精霊魔法が使えることは伏せている。きつく口止めされているのでヨハルすらも知らないだろう。
当然のことながらシンシアは彼女の意思を尊重するつもりだ。
(鉄の掟も正しく訂正されるし、今後リアンが精霊魔法を使うようなことはないと思う。だから、リアンにはこれまで通り過ごして欲しいな)
誤った内容の鉄の掟が広まっていたせいで、魔王の核の浄化が何百年と滞ってしまっていた。ヨハルが原本を読み直してくれたおかげで露呈し、改訂されることが決定した。
これによって、今後は数代にわたって聖女が魔王の核の浄化にあたるのだ。
シンシアは泉の中に佇む魔王の核をしげしげと見つめた。