呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?
「なら、どうして私が謁見をお願いしても会ってくださらなかったんですか?」
「それは……」
イザークは言い淀むがシンシアの真剣な眼差しを受けて、躊躇いながらも話してくれた。
「ユフェがシンシアだなんて思ってもみなかったから。だからその、今までやってきたスキンシップの数々がシンシアだったと思うと恥ずかしくなって死にそうになった」
話すに連れて頬を真っ赤に染めていくイザークは口元に手をあててシンシアから視線を逸らす。
「イザーク様」
その様子を見てシンシアは思った。
――なんて可愛い人だろう。
途端に、心の底から愛おしさが込み上げてくる。
「……イザーク様、本当はとっても可愛い人なのね。……やっぱり、好きだなあ」
うっかり心の声が出てしまう。しかし、シンシアが気づいた頃には遅かった。
腕を掴まれてイザークの胸板へ引き寄せられると紫の瞳に捉えられる。
そのまま影が落ちてきたかと思うと唇に熱を帯びた柔らかな感触がした。
シンシアはたった今起きたことに声なく叫ぶ。
顔に熱が一気に集中してとても熱い。自分の手で頬の熱を確認していると、イザークの楽しげに笑う声が耳に入る。
「俺なんかよりシンシアの方がよっぽど初心で可愛い」
「……っ!!」
シンシアはイザークに背を向けると自身の両頬に手を添える。
(嗚呼、処刑は回避できたのにこれじゃあ私の心臓が持ちそうにないわ。止まってしまう!!)
くるりと背を向けてあたふたしていると、ヴェールの頭巾とシンシアの美しい金色の髪が靡いた。
清められた泉の上を爽やかな涼しい風が駆け抜ける。
シンシアは熱っぽい頬でそれを感じながら、暫くはイザークの顔を見られそうにないと心の底から想ったのだった。