呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?
「キーリなら分かる話だと思うが……真珠は何から採れる?」
「真珠は貝から採れます」
「では、真珠はどのようにしてできると思う?」
そう訊かれてキーリは怪訝な表情をする。
「真珠は……貝がらの中に水中の小さな微生物や砂などの異物が貝殻と身体を覆う膜の間に入り込みます。異物に刺激されて膜の表面が剥がれ、それが異物と一緒に膜の中に入り込み、真珠袋ができます。真珠袋の内側では異物のまわりに貝殻と同じものが作られます。それが令嬢や夫人などが身につけているあの真珠です」
「つまり、真珠とは貝の腫瘍だ。そんな悍ましいものをユフェの首につけるというのか?」
「……」
イザークの言いたいことは分かるようで分からない。そんなことを言い出せばソファの牛革も傘の骨の鯨髭も皆悍ましい対象になるではないか。
真剣な表情で尋ねるイザークに対して、キーリは視線を逸らすとこめかみを押さえた。
「……もう、いろいろと面倒くさいので好きにしてくださって結構ですよ」
遠くを見るような目をして、生気のない声で言った。
「分かってくれればそれでいい。では、森の宴で首飾りの方は進めてくれ」
こうしてイザークは今日も有意義で楽しい休憩を過ごした。