呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?
第4話
次に目が覚めると、開けた川のほとりに倒れていた。雨はすっかり止んでいて雲の切れ間から青空を覗かせている。
(生きて、る?)
土砂降りだったお陰か雨水を充分に吸った地面が泥濘み、衝撃を緩和してくれたようだ。どこまで飛ばされたのか分からないが、早く救護所に戻らなくてはいけない。
(上級の魔物が救護所に出たってことはきっとネメトンの境界にいる討伐部隊は怪我をしてるはず)
シンシアは怠さの残る身体に鞭を打ち、立ち上がろうとする。が、何故か上手く立ち上がることができない。
違和感を覚えておもむろに視線を下へ向けると、手と足が人間のものではなかった。
「なっ、何これ?」
獣の足に、後ろ足の間には尻尾が垂れている。
異様な光景を目の当たりにしてシンシアは悍ましい生物に変えられるという呪いを思い出す。近くに水たまりがあることに気づいたシンシアは自分の姿を確認することにした。
(私、どんな悍ましい生物に変えられたんだろう。あの気持ちの悪い魔物の上をいく醜い生物なんてこの世に存在するの?)
恐る恐る水面を覗き込んでみる。
三角の耳とくりくりとしたつり目がちな瞳、すっと伸びたヒゲ。丸顔は金茶の毛に覆われてふわふわしていて、鼻はすっと通っている。
その悍ましい姿は――。
「……って、どこからどうみても普通の猫じゃない! どこが世にも悍ましい生き物なの!」