呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?
第6話
宮殿に連れ帰られたシンシアを待っていたのは、お風呂だった。
泥濘んだ地面に倒れていたのだから洗われるのも無理はない。
(ひぎゃああああ! ごめんなさい、ごめんなさい。もう勘弁してください!)
人肌程度のぬるめのお湯だがそれはシンシアにとっては拷問だった。
首までしっかりと泡風呂に浸けられ、固く絞ったタオルで顔を拭かれる。のみやダニの心配をしているのか侍女は丁寧にシンシアの身体を洗い上げた。
今は漸く身体を乾かしてもらっている。
『私には自動浄化作用が備わっているのよ……言っても誰にも通じないけど』
しっかりとブラッシングされ、首にリボンを付けられた後、ソファの上のふかふかのクッションに乗せられたシンシアは疲れ切った声で世話をしてくれた侍女に文句を言っていた。
当然言葉が通じるはずもなく、侍女は世話が終わると一礼して逃げるように部屋から去っていく。
そんなに急がなくても、と心の中で呟いたが答えはすぐに分かった。
「嗚呼、とっても綺麗になったな。青いリボンがよく似合う」
この部屋には誰もいないと思っていたのに。
恐る恐る身体を捻れば、ソファの背もたれに顎を乗せてこちらを覗き込むイザークの姿があった。人間の時にひしひしと感じていた殺気はかき消え、にこにこと甘やかな笑顔を見せている。