呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?
「陛下、今度は是非とも彼女を射止めてくださいね」
その真剣な表情を見て、シンシアに戦慄が走った。
思わずイザークの方を向くと彼は眉間に皺を寄せ、極悪非道な顔つきになっている。
間違いない。イザークは戴冠式の宴での粗相を未だに根に持ち、そして怒っているのだ。
(私を射止める? 弓矢で殺す気? 処刑って基本的に斬首だけど、新しい方法でも考えているの!? ということはつまり、このまま人間に戻ったら今度こそ私――殺される!?)
大変だ。早くここから遠いどこかへ逃げなくては。
シンシアは扉の前まで全力で走った。ところが二本足で立ってもドアノブまでは距離があり、加えて人間の手で握って捻らなくてはいけない形状のため猫の足ではどうにもならなかった。
『そ、そんな……。これってもしかして監禁状態!?』
前足の爪で扉をカリカリと引っ掻いていると後ろからすうっと影が伸びてきた。
「ユフェ、どこへ行こうとしている?」
突然頭上から降ってきた声に反応して頭上を仰ぐと、そこには甘やかな雰囲気は消え、恐ろしい殺気に満ちたイザークが仁王立ちしてこちらを見下ろしている。
紫色の瞳を光らせ、まさに獲物を狙う獣の如く獰猛で凶悪。
(ひぃっ、顔面凶器に殺される!!)
鋭い瞳と威圧的な雰囲気に圧されたシンシアは、とうとう気絶してしまったのだった。