呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?
第2章 愛猫の世話係
第1話
剣の風斬り音が幾度となく部屋に響く。シンシアはイザークから振りかざされる剣の刃をなんとか交わして逃げ惑っていた。
呪いで猫の姿になったせいで扉は自力では開けられず、退路は断たれてしまっている。
できることと言えば調度品の物陰に隠れて攻撃を躱すのみ。その度に高価な陶器の壺が粉々に割れ、高級木材のテーブルや椅子が破壊される。
質素倹約がモットーな教会で暮らしてきたシンシアにとってこの行為は罰当たりの何ものでもない。
(ああ、ベッドの金細工が! ベルベットのソファが!)
紫の瞳を吊り上げるイザークはどこからどう見ても極悪非道だ。その顔面凶器が悪い意味で良い味を出し、血も涙もない雷帝らしく薄ら笑いを浮かべている。
「逃げるな。ちょこまかと動かれては一発で仕留められないじゃないか。苦しい思いをするのはおまえだぞ?」
(あれれ~? 射止めるって言ってたからてっきり弓かと思っていたのに処刑方法は剣に変えたんですか? って、そんなことはどうでもよくって!!)
長剣が頭上を掠め、一部の毛がぱらりと床に落ちる。振り下ろされた剣をどうにか躱したが遂に部屋の隅にまで追い込まれてしまった。
ゆっくりと近寄ってくるイザークはペロリと己の剣を舐めた。シンシアの足は恐怖で竦んでしまい、微動だにしない。
「これで終わりだ――」
そう呟くとイザークはシンシア目掛けて剣を振り下ろした。
嫌だ! 死にたくない。殺さないで――。