呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?
「ユフェ、魘されているようだが大丈夫か?」
声がして後ろを見れば、顔面凶器がそこにある。
「ニャアアアアン!!」
シンシアは悲鳴を上げると慌ててイザークから距離を取る。気づかないうちに尻尾の毛がぶわっと膨らんで逆立っていた。
「大丈夫だユフェ、俺だ。怖くない」
(そんな顔面凶器で見つめられたら怖いに決まってるじゃないの……)
シンシアの心の内など知らないイザークは落ち着かせるために優しい言葉を掛けてくれる。
「新しい環境で不安だろう? 慣れるまではできる限り側にいる」
(いえいえ、そんな気遣い結構ですから。できる限り側に来ないでください。一生来ないでください)
ぶんぶんと首を何度も横に振るとイザークは「痒いのか?」と言って人差し指で優しく顔や耳後ろを撫でてくる。
そうじゃない、と猫パンチをお見舞いしてやろうと思ったが、彼の指先が絶妙に気持ちの良いポイントを押さえてくるので戦意は削がれた。
「すっかり日も暮れているし、腹が減っただろ? ユフェのために食事を作った」
シンシアは目を丸くした。雷帝自らが料理を作るなど前代未聞だ。
抱き上げられてテーブルへ移動するとそこにはできたての料理が置いてあった。