呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?
野菜や鶏肉をみじん切りにしてしっかりと炒め、風味付けにハーブが使われている。とても良い香りがして食欲をそそった。
イザークはシンシアを抱いたまま椅子に腰を下ろすと、もう片方の手でスプーンを持ち料理を掬って口元へと運んでくれる。シンシアはギョッとして身じろいだ。
(私、イザーク様に食べさせてもらうなんて絶対無理! こんなシチュエーション、心臓が縮み上がるわ!)
腕の中で暴れたが却って力を込められて尻尾の付け根をぽんぽんと叩かれた。
「大丈夫だ。俺が作ったから毒は入っていない。初めてだから自信はないがユフェのために作った。食べてくれると嬉しい」
目元を優しげに細めてくる。ちょっぴり自信のなさが窺えるその表情は普段の凶悪な顔つきとも、陶酔した顔つきとも違って、どこにでもいるただの青年だった。
あまりの豹変ぶりにシンシアは動揺を隠せない。
吸い込まれるほどに美しく輝く紫色の瞳に至近距離で見つめられ、たちまちシンシアの顔に熱が集中した。
(な、なな何これ。すごく心臓がドキドキしてる。こんなにも動悸が激しいなんて、もしかして私……。私まさか――――病気かな!?)
貧民街上がりで教会育ちのシンシアは一度も重い病気に罹ったことはなく、風邪すらひいたことはなかった。
猫になって初めて病気になるなんて災難だったが、思い当たる節は一つあった。