呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?
近年のランドゴル伯爵家は動物を手なずける力が失われつつあるにせよ、家柄自体は衰退しているどころか繁栄を極めている。今では上位貴族と肩を並べるくらい勢いに乗っているらしい。
そこの令嬢とあらば縁談など引く手あまただろう。
(貴族の令嬢は社交界へ出る前に行儀見習いをするらしいけど、ロッテの年齢的に遅いんじゃないかな? 社交界デビュー前に行儀見習いをするなら確か十三歳とかそれくらいよね?)
貴族の細かい風習がよく分からず首を傾げていると、書類を小脇に抱えたイザークがシンシアの元にやってきた。
「ユフェ、俺は今から会議に行ってくる。夕食までには戻ってくるからそれまで良い子にしててくれ」
イザークはシンシアに話しかけると、優しく顎を撫でてくる。続いてロッテの方へ顔を向けるといつもの厳めしい顔つきになった。
相変わらず恐ろしい目つきにシンシアは身が竦んでしまう。
ロッテは緊張している様子ながらも、恐れる様子もなくその視線を受け止めていた。
「侍女長から仕事の内容は聞いているな?」
「はい陛下。身のまわりのお世話についてはお任せください」
「あとはユフェの遊びや話し相手になってくれ。宮殿での生活は寂しいかもしれないからな。……俺はロッテの、ランドゴル家の才を買っている」
すると榛色の瞳が激しく揺れた。
イザークに悟られないように俯くと唇を噛みしめる。