呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?
(ああいう男っていろんな女の子に手を出しておきながら、二人きりになれば『君が一番だよ』なんて言うのよね。シンシャとして何度か恋愛の話を聞いたけど、みんな弄ばれた挙げ句、捨てられていたわ)
幼い頃から教会で育ったシンシアは恋愛がよく分からない。が、カヴァスがいけ好かない野郎だということは容易に想像できる。
これまで恋愛の悩み相談を女の子たちから聞いていたし、既婚者からはパートナーに選ぶなら誠実な男に限ると散々聞かされていた。
(皆に甘いんじゃなくて私にだけ特別、とか。そういうのが良いな)
自分にだけ特別な一面を向けてくれる人。
例えばいつも強がりなのに自分にだけ弱い部分を見せてくれる人。いつもは無愛想なのに二人きりの時は笑顔になってくれる人。
ふと、脳裏に浮かんだのはいつもは極悪非道な顔つきなのにうっとりと優しい瞳で見つめるイザークだ。頭を撫でてくれる温かな彼の手を思い出し、堪らず胸がキュッと苦しくなったところで、シンシアは我に返った。
(……はいっ!? なんでここでイザーク様が出てくるの!?)
おいおいちょっと待て。いや、今のは例えが悪かった。
(イザーク様が優しいのは猫限定で人間には適用されないから! だって向こうは聖女の私を殺したくて堪らない雷帝だもの!!)
猫の生活を送ったせいで少しほだされているのではないかと自身を心配するシンシア。変に心を許してはいけないと、改めて気を引き締めることにした。