呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?
第3章 魔力酔い止めの薬

第1話



 ◇

 イザークは貴族たちとの会議を済ませると執務室で事務作業をこなしていた。
 ユフェの部屋と化している仕事部屋と同様に、室内は年季の入った艶やかなローズウッドの机とその後ろにアルボス帝国を象徴する翼の生えた獅子と月桂樹のタペストリーが掛けられている。
 その他、側近のキーリや文官たちも仕事ができるようにいくつか机が設けられていた。

 今、ここにいるのはイザークとキーリの二人だけだ。
『雷帝』という異名が付いたことであからさまに嫌な態度を取る貴族はいなくなった。


 これは側近たちやオルウェイン侯爵である祖父が手を貸してくれたお陰でもある。
 中でもキーリは頭の回転が速く、状況を把握するとこちらの利になるよう動いてくれる。剣は握れない代わりに多くの書物を熟読し、吸収した知識を駆使して政治の手腕を振るってくれているのだから彼ほど頼りになる右腕はいない。


 キーリは国民を苦しめていた貴族から多くの証拠を掴んで取り締まることに成功した。
 人身売買や麻薬など数々の悪行に手を染めていた貴族は全員財産を没収し、爵位や称号を剥奪した。
 加えて反乱を起こせないように空気中の魔力が薄い辺境地へと飛ばした。魔法も使えず、簡単には連絡の取れない場所に送ったことで周囲は彼らがどうなったのか確かな情報を掴めないでいる。

 貴族たちの間では雷帝に目を付けられると無残な末路を迎えるという噂が流れ、その結果悪事を働いたり皇帝に刃向かったりする者は相当数減った。
 だが、今回の議題で大人しくなっていた貴族たちに反撃の機会を与えてしまった。


「このところ大人しかった貴族たちが騒ぎ始めたな」
「ええ。その通りですね」
 心の内を吐露すると控えていたキーリが深く頷いた。
 議題の内容は中央教会の大神官・ヨハルの弾劾を求めるものだった。

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