呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?


 今回、ヨハルが担当しているネメトンの結界に亀裂が入り、何者かに破壊されて大騒ぎになった。
 討伐部隊の調査の結果、犯人が人なのか魔物なのか分かっていない。
 小心者の貴族の中には取り乱して「魔王が復活したのでは?」などと馬鹿げたことを言う輩も現れる始末だ。

 結界自体が弱まって魔物が侵入してしまうことは過去にも事例がある。これまでさしたる問題ではなかった。しかし、ネメトン付近の領内で原因不明の瘴気の発生も重なって、教会側の過失ではないかと囁かれている。
 ここでもし聖女の失踪が明るみに出れば大騒ぎするどころかすぐに弾劾裁判が決行され、ヨハルは間違いなく罷免される。

(ヨハル殿以外に大神官が務まる者はいない。他の者などそれこそ貴族たちの傀儡(くぐつ)にされるだけだ。シンシアの失踪は隠しているが、瘴気が頻発して人的被害が出れば、領主が教会に対して聖女の派遣を要請するだろう)

 その時が来るまでに何とか瘴気の原因を突き止め、シンシアを見つけださなくてはいけない。不安と焦慮ばかりが先行する一方でイザークはある決断を下した。
「……討伐部隊に命令しているシンシアの捜索を切り上げる」

 既にネメトン付近には帝国騎士団と中央教会の聖職者からなる調査団が赴任している。
 討伐部隊をこれ以上留め続ければ貴族たちに怪しまれ、シンシア失踪が知られてしまうかもしれない。

 苦渋の決断だが仕方のないことだった。
 キーリは首肯すると、手配するために一度下がった。

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