呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?
『もしかしてあそこがロッテの部屋なの?』
示されたは宿舎二階の角部屋だ。幸い、大木に近い位置で伸びた枝を使えば窓際まで辿り着けそうだ。
『分かった。あそこまで私が登れば良いのね!』
シンシアは小鳥の意図を理解すると早速木に登り始めた。
お風呂嫌いのシンシアは日頃リアンの魔の手から逃げるため、全力疾走は然ることながら物陰に隠れることも木登りをすることも得意だ。
聖女になって間もない頃、木に登って外廊下の屋根へ飛び移り逃げ切ったことがある。最後は見つかり、心配したリアンに木登りだけはやめて欲しいと懇願されてしまったが。
木登りは久方ぶりだったが、動きにくいワンピース型の寝間着でよじ登っていた時と比べて猫の姿は随分と身軽で動きやすい。
幹の膨らみを足場にしながらせっせと宿舎二階と同じ高さまでに到達すると、ハング窓に近い枝へと移動する。シンシアは落ちないようバランスを取りながら慎重に先へ進んだ。枝は窓に近づくにつれて細くなっていて、さらに窓との間には距離がある。
少しだけ開いているので助走をつけて跳べば部屋に入ることはできるだろう。だが、勝手に人の部屋に上がるのは如何なものか。
迷った末、シンシアは大きな声を出した。
『ロッテ、中にいるんでしょ? 出てきて』